大垣市今岡町は、濃尾平野の北西部に位置する大垣城城下の端にある。
歓楽街のなごりある細道を入った密集地の一角に今岡の家はある。
大垣市は綺麗な水が自噴する“水都”である一方、排水不良による内水氾濫に苦しんだ歴史がある。近くは平成16年台風23号の影響で46戸が床上浸水に見舞われた。
施主の強い要望で建物は地面より1メートルあげた高床式とした。
密集地に加え、埋蔵文化財包蔵地である事、準防火地域である事も設計から施工にかかる大きな制約となった。
法律遵守、火災の燃え移りを抑止する工業製品は用いるが、無機質で画一的な家にしたくないという施主の想いには共感できた。また密集地とは言え、庇を出した瓦屋根が趣きある町並みだった。地域の末っ子として、この景観に受け入れられる建築を思い描いた。
四方が住宅に囲まれているが隙間はあった。その隙間を光や風の通り道と捉えて窓を配した。各室がゆるやかに繋がる大きなワンルームのような室内で、いたる場所から陽が入る心地よい居場所ができた。それらの窓に設えた格子網戸や戸袋、登り梁工法でつくる切妻屋根の木部が温厚な印象となった。
左官職人による目地のない鏝仕上げの壁も施主の憧れだった。
外壁はモルタル左官、内壁は珪藻土に藁を含めたりもした。左官の親方とサンプルをつくって悩んだが、施主と職人が好みを分かち合って決めるやり方に失敗はないと感じた。
総じて出来たものは普通の住宅だが、確かな寸法で設計し、職人の手で丁寧につくられた。住む者にとって、それがなんだか素敵に思える、そんな心のあり方が家づくりを通して育めたらとても幸せだ。
私にとっては“住まい手と敷地に似合う自然なかたち”という家づくりに対する方向性を決定づける処女設計となった。
施主の立川さんとは、これからも末永いお付き合いをお願いしたい。一緒に建物の成長を見届けていきたい。
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