斎藤さんご家族とは土地探しからのお付き合いとなった。

ある日“気になる土地がある”と連絡をいただいた。松本市惣社にある新興分譲地の突き当たりに、旗竿の三角変形地が売れずに残っていた。

造成前の地名が大字鍋田で、もともとは鍋底みたく窪んだ一帯が桑畑だったらしい。土地が盛土された後も、その南側は1.5m程低く畑のまま使われている。一辺の敷地境界に沿って湯川が流れ、対岸は歩行者自転車専用道路だった。決して広くは無いが南に開けて穏やかな場所。この敷地の魅力が、これから始まる分譲地の建設ラッシュの後も受け継げる事を嗅ぎ分けて、私達は一目惚れに近い感覚で土地の購入を決めたのだった。

 

当初は平屋の住宅を希望されたが少しずつ新たなご要望も生まれ、私は平屋の限界を感じていた。建ぺい率という法律上の規制は問題なく解決しているが、敷地に対して窮屈な感じが拭えなかった。
思い切って提案したのは大屋根形式の2階建て。寝室を1階に設けて平屋の暮らしを体現した。急勾配(5寸)の屋根が軒高5.1mの桁に架かり小屋裏のような2階を考えた。この計画はとても気に入っていただけた。

 

素材の選定は実に潔く進められた。施主の人柄や暮らし方、好む食品や器の類をヒントに柔らかい自然のモノを提案したら、あっさり承諾いただいた。外壁は県産さわら板、室内は杉板と土色の珪藻土で仕上げた。家具作家に手掛けていただいたサクラ材のキッチンは、ワンポイントでありながら相まって、とても素敵(素的)な空間になった。

 

(余談だが、材料が自然であればある程、デザインは無用になる。だから私でも住宅の設計が出来る)

 

木部にはオイル塗装を施主自身にやっていただいた。とても大変な作業だったが、家を育むような感覚が芽生えると後々の暮らしが楽しいと思う。

これからは薪割りをして焚付けをして…暖を取るのも一手間だけど、無理に原始的に営む必要は無い。エアコンも上手く併用しつつ快適や快感、不便益などを感じて、また感想を聞かせてほしい。

 

下校中の小学生が、今はまだ真新しい鍋田の家を眺めながら帰って行く。低い佇まいがちょこんとお座りしているようで愛嬌があでしょ?と、私は親バカのように思っている。

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