初見で「自然素材は好きじゃない」とお聞きして、私は初め意味が分からなかった。工業既製品の組み合わせであれば住宅メーカーが得意とするところ。設計事務所に出る幕はないと思った。

ある日の面談で当時お住まいだったアパートに伺った。そこでは素材に頼らずとも心地よく、愉しく、日々の家事を丁寧にやり繰りする暮らしぶりを垣間見た。立て掛けられたホワイトボードに家づくりの希望がぎっしりと書き綴られているのを見て、私は自信の役割を考えながら腑に落ちる思いで岐路についた。

 

敷地は全国でも有数のスイカ産地、松本市波田下原集落の一画にある。

敷地の南に広がる一面のスイカ畑が、この土地にかけがえのない見晴らしをもたらしていた。と同時に、定植期は春風と土埃の問題をはらんでいた。また夏と冬、昼と朝夜の寒暖差が大きい季候に配慮が必要だった。自然豊かな環境ではあるが“仲良くする”より“上手に付き合う”ような関係を模索して、とりわけ部屋の配置や窓の抜き方を検討した。

提案図を渡すと施主自らパースと模型をつくって来てくれたので、そこに寸法や納まりを加筆して設計を進めた。打ち合わせを重ねる中で、キッチンを暮らしの中心に置き、居場所が点在する軒の深い家を描いた。

螺旋階段を駆け上がると、子ども部屋とは言い難い7帖のホールがある。設計しておきながら実に不親切な空間は、施主に織り込み済みの実験的な子どもの居場所だ。お子さんの成長と共に育まれるテリトリー意識を尊重し、布や家具等で自由に仕切って使っていただけたら嬉しい。

 

このおうちは、すみっこの居心地が良いと思うがどうだろうか。押し付けがましくないように口をつぐみ、暮らし始めてからの感想を楽しみにしている。ゆっくりじっくり、セルフメイクの外構工事を楽しんでください。また遊びに寄らせていただきます(^^)

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